おつかれさまです。
今回は、超音波検査士認定試験で非常に重要となる「超音波の安全性」について書かせていただきます。
超音波検査はなぜ安心?でも注意が必要な理由
超音波検査は、X線CTやPETなど他の診断法と比べても生体へのエネルギーレベルが圧倒的に低い、非常に安全な検査法として広く普及しています。過去数十年間、診断レベルの超音波で明確な有害作用が生じたという報告はありません。しかし最近の装置は機能やモードが多様化し、音響出力が増加傾向にあります。そのため、私たち検査士は「診断情報の利益」と「生体作用のリスク」のバランスを常に意識しながら、慎重に装置を使用することが求められます。
ALARAの原則
超音波の安全を考える上で、絶対に忘れてはいけないのが
ALARA(As Low As Reasonably Achievable)の原則です。これは、「可能な限り低い超音波エネルギーで、必要な診断情報を得る」という考え方です 。装置の画面上に表示される「スピードメーター」のような指標、それが次に説明する
TIとMIです。
安全性の「見える化」指標:TIとMI
超音波が生体に与える作用には、大きく分けて二つの種類があります。
- 熱的作用 (Thermal Effects): 超音波エネルギーが生体組織に吸収され、温度が上昇する作用です。
- 非熱的作用 (Non-thermal Effects): 放射圧や振動による機械的な作用で、キャビテーション(小さな気泡が振動したり、急激に収縮して崩壊したりする現象)が主な原因となります。
この二つの作用の起こりやすさを教えてくれるのが、装置の画面に表示される安全性の指標、TI(Thermal Index)とMI(Mechanical Index)です 。
TI(熱的指標)
超音波による組織の温度上昇の可能性を示す指標です 。TIが1.0は、特定の組織の温度が1℃上昇する可能性があることを示しています 。
TIには3種類あります。
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- TIS: 軟部組織(Soft Tissue)
- TIB: 骨表面(Bone)
- TIC: 頭蓋骨表面(Cranial-Bone)
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特に胎児の検査では、妊娠初期は軟部組織が主体のためTISが重要になり、妊娠中後期には骨が発育してくるためTIBが重要になると考えれば覚えやすいかもしれません。
MI(機械的指標)
超音波によるキャビテーション(非熱的作用)の可能性を示す指標です 。MIは、組織内での超音波の負音圧の影響を表しており、この値が高いほどキャビテーションのリスクが高まります 。
臨床現場でのTIとMIの活用
TIとMIは、検査する部位やモードによって重要性が変わってきます 。
- MIがより重要な場合: 造影剤を使用する検査や、肺・腸管ガスなど気泡を含む組織を検査する場合です。気泡が存在する組織ではキャビテーションの閾値が下がるため、注意が必要です。
- TIがより重要な場合: 胎児の頭蓋や脊髄、発熱している患者さん、肋骨や骨を走査する場合です 。
- ドプラモードとTI: ドプラ法(特にパルスドプラモード)は、超音波ビームが同じ場所に連続的に照射されるため、TIが高くなりやすい傾向があります。国際産科婦人科超音波学会(ISUOG)のガイドラインでは、胎児のルーチン検査でパルスドプラモードを使用しないことが望ましいとされています 。
TI・MIを下げるための具体的な方法
TIやMIが高くなった場合は、以下のような方法で下げることができます 。
- 送信出力を下げる: これが最も直接的で効果的な方法です 。
- 受信ゲインを上げる: ゲインを上げることは超音波出力には影響しないので、画像が暗い場合は、まずゲインを調整しましょう 。
- 走査モードを変える: TIは、Bモードやカラードプラのような走査モードではビームが動くため、非走査モード(Mモードやパルスドプラ)よりも低くなります 。
- 照射時間を短縮する: TIは照射時間と共に増加するため、できるだけ短時間で検査を終えることも大切です 。
まとめ
超音波検査は、長年にわたり安全な診断法として確立されてきました 。しかし、超音波検査士の皆さんには、装置の画面に表示されるTIやMIの情報をしっかりと活用し、ALARAの原則に従って、患者さんにとって最も安全な方法で検査を進めてほしいと思います。この知識は、試験対策としてだけでなく、未来の患者さんの安全を守るために不可欠なものです。安全性に関してはもう少し掘り下げていこうと思います。
出典:超音波診断装置の安全性に関する資料(公益社団法人 日本超音波医学会)
【免責事項】
本記事は、超音波検査士認定試験の学習・教育を目的として執筆しています。
医療上の診断・治療を代替するものではなく、記載内容の正確性や完全性を保証するものではありません。
実際の医療行為や健康状態に関する判断は、必ず医師や専門家にご相談ください。
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