お疲れ様です。
超音波の安全性をもう少し深く掘り下げていきましょう。今回は、超音波の物理量を理解する上で欠かせない音圧・強度・出力について書かせていただきます。
超音波の「音圧」と「強度」の指標について
超音波は、文字通り「音」の一種です。私たちが普段耳にする音と同じように、空気を押したり引いたりして伝わりますよね。超音波も同じように、生体組織の中を「疎密波」として伝わります。
この超音波の力を表す指標として、「音圧」と「強度」があります。
音圧(単位:PaまたはMPa)
音圧とは、超音波が伝わる際に媒質(生体組織)に与える圧力の変化の大きさを表します。簡単に言うと、超音波が組織を「どれくらいの力で押したり、引っ張ったりするか」を示す指標です。この音圧の大きさが、次に説明する「非熱的作用」と深く関わってきます。資料にあるように、超音波音場には「最大正音圧」と「最大負音圧」があり、特に「最大負音圧」は、キャビテーション(気泡の崩壊)を引き起こす主要な原因とされています。
強度(単位:W/cm²またはmW/cm²)
強度は、超音波ビームの進行方向に垂直な「単位面積あたり」を、単位時間あたりに通過する音響エネルギーの量を表します。これは超音波が「どれくらいのエネルギーを運んでいるか」を示す指標で、熱的作用と密接に関係しています。
また、強度にはいくつかの種類があります。
- ISPPA (Spatial Peak Pulse Average):パルス波の「パルス幅内」の平均強度で、空間的なピーク値を示します。
- ISPTA (Spatial Peak Temporal Average):パルス波の「繰り返し周期内」の平均強度で、空間的なピーク値を示します。
これらの指標は、検査モードや装置の設定によって大きく変化するため、しっかりと把握しておくことが重要です 。
超音波の「出力」と「強度」の違いについて
出典元では「超音波出力」と「超音波強度」という、似ているけれど全く異なる2つの物理量について説明されていますね。この違いを理解することは、試験でも、そして実際の臨床でも非常に大切です。
超音波出力(単位:WまたはJ/s)
これは探触子(プローブ)から放射される超音波の「全エネルギー」を、単位時間あたりで示したものです 。イメージとしては、電球の明るさ(ワット数)に近いです。部屋全体を照らす電球のパワーそのもの、と考えてみてください。
超音波強度(単位:W/cm²)
こちらは先ほども説明したように、単位時間内に「単位面積あたり」を通過する音響エネルギーの量です 。電球の例で言うなら、「壁の一点に当たる光の明るさ」のようなものです。同じ電球でも、壁のどの部分を測るかによって明るさは変わりますよね。
上記2つは単位の違う別の物理量であるが誤解しやすい。注意が必要と、特に注意を促しています 。超音波診断装置の探触子から出る「全パワー」が超音波出力(W)で、そのパワーが特定の面積(cm²)にどれだけ集中しているかを表すのが超音波強度(W/cm²)なのです。
この二つの違いをしっかりと理解することで、なぜ超音波のビームパターンや絞り方によって、生体への作用が変わるのかがわかってきます。
まとめ
これらの指標は、装置の画面にリアルタイムで表示されるTI(熱的指標)とMI(機械的指標)の基礎となるものです。物理量は難しく感じるかもしれませんが、「超音波が組織をどれくらいの力で押すか(音圧)」、「どれくらいの熱エネルギーを運ぶか(強度)」、「プローブから出る全パワーはどれくらいか(出力)」というように、一つひとつを分けて理解していくと、ぐっと分かりやすくなりますよ。
今回の解説が、皆さんの勉強の一助となれば嬉しいです。頑張ってくださいね!
出典:超音波診断装置の安全性に関する資料(公益社団法人 日本超音波医学会)
【免責事項】
本記事は、超音波検査士認定試験の学習・教育を目的として執筆しています。
医療上の診断・治療を代替するものではなく、記載内容の正確性や完全性を保証するものではありません。
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