2026年の日本心エコー図学会(JSE)学術集会のプログラムを見ていて、素直に「現地の空気を感じてみたい」と思いました。テーマは「心エコーで、知る、深める、繋がる」。この言葉どおり、今年のプログラムには、AI、拡張能評価、HFpEF、心アミロイドーシス、弁膜症、三尖弁カテーテル治療、感染性心内膜炎、そして手術との連携まで、心エコーの“今”がかなり濃く詰まっています。
ただ最新知識を並べるだけではなく、「それを日常診療でどう使うか」まで見えることが参加する醍醐味だと考えます。一般演題の熱量、会長企画の深さ、ランチョンやシンポジウムの実践的な切り口を眺めていると、“知識をアップデートする場”であると同時に、“これからの心エコーの立ち位置を考える場”でもあるのだと感じます。
※なお、本記事は一般公開されているプログラムをもとに、私自身が注目したポイントを個人的な視点でまとめたものです。
解釈や着目点には私見を含むため、最終的には学会公式情報もあわせてご確認いただければ幸いです。
今年の心エコー図学会は「未来」と「現場」が同時に見える
今年のプログラムを見てまず感じるのは、未来の話と現場の話がきれいにつながっていることです。
たとえば2日目の仁村レクチャーは「AIで心エコーはどう変わるか」、海外留学助成帰国報告会も「心エコー図検査と人工知能」がテーマです。
一方で、若手フェローの会では「拡張能はガイドライン通りにルーチンで評価すべきか」といった、明日の現場にそのまま持ち帰れそうな討論も組まれています。未来の話に胸が高鳴る一方で、足元の診療にも直結する。このバランスの良さが、今年の魅力だと思います。
海外でも同じ方向へ進んでいると感じます。
ASE 2026 Scientific Sessions は、公式に「innovation」「multimodality imaging」「collaborative learning」を前面に掲げ、AI、オートメーション、VR、他モダリティとの統合まで含めて、これからの実践を学ぶ場として設計されています。
つまり今年の日本のプログラムは、国内だけの話ではなく、世界の大きな流れともかなり重なっているのです。
AIが“遠い話”ではなくなっている
AIは、今年の心エコー図学会を語るうえで外せないキーワードです。
仁村レクチャーと海外留学助成帰国報告会の両方でAIが扱われるだけでなく、コーヒーブレイクセミナーでは「AIを用いたHFpEF、心アミロイドーシスの拾い上げ」が取り上げられています。
さらにランチョンでは「Pioneering the future of echocardiography」という、まさに未来志向のセッションも予定されています。プログラム全体を見ても、AIは今年の“飾り”ではなく、学会全体を流れる空気そのものになっている印象です。
海外では、AIはすでに「使うかどうか」を議論する段階から、「どう安全に、どう賢く使うか」を考える段階に入っている印象です。ASEのAIに関する公式見解では、AIは診断精度やワークフロー改善に大きな可能性を持つ一方で、標準化や適切な運用、そして臨床家による解釈と監督が重要だと示されています。心エコー医や技師の役割が消えるのではなく、むしろ“AIを使いこなせる人”の価値が高まっていく。そんな未来を想像しながら聞くと、今年のAIセッションはかなり面白そうです。
拡張能評価とHFpEFが、今年はぐっと面白い
今年のプログラムで、臨床的に特に熱いと感じるのが拡張能評価とHFpEFです。一般口演では左室拡張能セッションが組まれ、ASE 2025年版拡張能ガイドラインと2016年版の比較、HFpEF除外能の限界、早期HFpEFの運動耐容能低下、息切れ外来での運動負荷エコー実践まで並んでいます。さらにランチョンでは「左室拡張能と左房圧評価の最前線」、別のランチョンでは「HFpEFマネジメントのNew Era」もあり、今年の学会がこのテーマをかなり重視していることが伝わってきます。
若手フェローの会で「拡張能はガイドライン通りにルーチンで評価すべきか」を真正面から議論するのも、とても今年らしい流れです。
見逃したくない疾患を“疑える目”が、ますます大事になる
今年のプログラムを見ていて印象的だったのは、心アミロイドーシスやATTR-CM、ファブリー病など、「気づけるかどうか」でその後が大きく変わる疾患がとても厚く扱われていることです。
ランチョンでは「心エコー図で見抜くATTR-CM診断」「心amyloidosis診療新時代」「心筋症に潜むファブリー病の診断と治療」が並び、スポンサードシンポジウムでも二次性心筋症や治療を見据えた心ファブリー病診断が扱われています。
ASEも、心アミロイドーシスについて早期診断と治療・管理の教育リソースをまとめており、この疾患が以前よりも広く認識され、新しい治療選択肢が重要になっていることを示しています。
今は、「珍しい病気を知っている人だけが見つける時代」から、「日常のエコーで疑える人が拾い上げる時代」へ移っているのだと思います。そう考えると、今年のJSEは、ただ知識を増やすだけでなく、“疑う力”を磨く学会としてもかなり魅力的です。
弁膜症とSHDの流れを見ているだけでも行きたくなる
弁膜症とSHDの流れも、今年はかなり充実しています。
WATCHMAN留置をエコー医の視点から学ぶランチョン、Amuletの安全性と成功率向上へのアプローチ、SHD治療の意思決定を支える心エコー、そして「弁膜症治療における技師の関わり方ー心エコー画像が治療を変えるー」といった企画まで並んでいます。
診断のための心エコーではなく、治療を動かすための心エコーへ。そんな流れがはっきり見える構成です。
会長企画でも「Top Surgeonとその相棒に聞く」「ケースカンファレンス:心エコー所見を手術適応・術式に活かす」「大動脈弁逆流症:外科医が知りたいこと、内科医が伝えたいこと」と、外科やハートチームとの接点が強く意識されています。
さらにEACVI-JSE Joint Symposium では “Valvular heart disease and echocardiography Update 2026” が組まれており、国際的な視点から弁膜症や三尖弁TEERを学べる流れもあります。弁膜症好きには、プログラムを見ているだけでかなり心が動く内容です。
海外でも、この流れはさらに加速している印象です。
ASE 2026 は、構造的心疾患や手技支援を含む multimodality imaging を重視しており、ESCも三尖弁逆流について評価の重要性と治療選択肢の拡大を明確に示しています。
心エコーは“診断検査”で終わるのではなく、“治療戦略の一部”として機能する時代に入っている。その実感を、日本の現場に近い形で得られるのが今年の学会の大きな魅力だと思います。
三尖弁がここまで前に出ているのが、今年らしい
三尖弁も、ここ数年注目されているテーマです。
一般公開プログラムだけでも、TriClip™ G4システムを扱うランチョンがあり、「TRは治療できる時代へ:TriClipを支えるイメージング」と、かなりストレートなタイトルがついています。
さらに一般口演でも、右心系弁膜症、運動負荷時のTR評価、Ebstein病や3D心エコーなど、三尖弁に関する話題がしっかり並んでいます。
少し前まで“forgotten valve”という印象があった領域が、ここまで前景化しているのは本当に時代の変化だなと思います。
ESCの解説でも、TRは高齢者で決して珍しくなく、適切な評価や早期介入の重要性が強調されています。
治療の選択肢が広がれば広がるほど、術前評価や術中ガイドとしての心エコーの重要性は増していきます。
今年のJSEで三尖弁がこれだけ厚く扱われているのは、日本でもまさにその転換点に入っているからなのだと思います。
“詳しい人だけの学会”ではなく、“これから心エコーの魅力を深めたい人の学会”に見える
学会というと、どうしても「すでに詳しい人が行く場所」という印象を持ちがちです。
けれど今年のプログラムを見ていると、むしろ逆で、「これからもっと学びを深めたい人」にも開かれている感じがあります。若手フェローの討論、教育を考えるダイバーシティ推進委員会セッション、技師の役割を前面に出したランチョンなど、知識や立場の違いを越えて参加しやすい入口がいくつもあります。
海外のASE 2026も、医師・ソノグラファー・研究者が一緒に学ぶ collaborative learning を打ち出しています。そう考えると、今年のJSEは、単に最先端を追うだけではなく、「心エコーの魅力をあらためて感じる場」になりそうです。プログラムを見ながら、今年は少し背伸びしてでも行ってみたい、そんな気持ちになる学会です。
まとめ|2026年のJSEは、“今”の心エコーを体感したくなる学会
2026年の日本心エコー図学会は、AI、HFpEF、心アミロイドーシス、弁膜症、三尖弁、SHD、感染性心内膜炎と、いま世界で注目されているテーマが日本の臨床に近い形で並んでいます。そして何より、そのどれもが「診断して終わり」ではなく、「その先の治療や連携につなげる」方向に向かっているのが印象的です。
最先端を学びたい人にも、日常診療のヒントがほしい人にも、少し先の未来を見てみたい人にも刺さる内容だと感じました。参加登録すれば事前に抄録が閲覧可能です。ご興味のある方は是非!

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