日本超音波医学会から医用超音波の基礎を学べるeラーニングが公開されています。
拝見しましたが、イラストを交えながらとても分かりやすく丁寧に解説されています。
これだけの教材を、会員・非会員を問わず無料で視聴できるのは本当にありがたいですね。
初学者の方や超音波検査士認定試験を受験予定の方は、ぜひ公式の無料教材も活用してみてください。
超音波の基礎を学ぶと、画像が作られる仕組みやアーチファクトの原因を理解しやすくなります。
その理解は装置設定や画質の改善にもつながり、より質の高い検査を行うための土台になります。
私自身も改めて基礎を勉強したくなり、以前購入した参考書や、JSSから送られた【超音波基礎技術テキスト第2版】を読み直しています。
減衰の基本や周波数との関係については、こちらの記事で解説しています。
【超音波検査の基本】なぜ深部が見えにくい?「減衰」の仕組みと「周波数」の関係を解説!
減衰は2種類?3種類?資料によって分類が異なる
超音波の減衰について調べていると、資料によって分類の仕方が少し異なることに気づきました。
JSSの基礎テキストでは、減衰を主に「吸収減衰」と「散乱減衰」の2つに分けています。
ただし、拡散について書かれていないわけではありません。散乱減衰の説明の中で、散乱・回折・反射を繰り返すうちに超音波が拡散し、振幅が小さくなることや、生体内を伝搬するにつれて超音波が次第に拡散することが説明されています。
つまりJSSのテキストでは、「拡散減衰」を独立した項目として設けるのではなく、散乱減衰の説明の中で扱っている構成になっています。
一方、日本超音波医学会の『超音波検査士研修ガイドライン』では、減衰に関する細目として「吸収減衰」「散乱減衰」「拡散減衰」がそれぞれ挙げられています。
この違いは、どちらかが誤っているというより、減衰をどの範囲・細かさで分類するかの違いと考えられます。
本記事ではそれぞれの違いを理解しやすくするため、日超医の研修ガイドラインに沿って、吸収・散乱・拡散の3つに分けて整理します。
3種類の減衰を簡単におさらい
吸収減衰・散乱減衰・拡散減衰についておさらいです。
- 吸収減衰: 超音波のエネルギーの一部が、組織内で熱などに変換され、超音波として伝わるエネルギーが減少する現象
- 散乱減衰: 超音波が組織中の微細な構造によってさまざまな方向へ散り、元の進行方向の強さが低下する現象
- 拡散減衰: 超音波の波面やビームが広がり、そのエネルギーがより広い面積に分配されることで、単位面積あたりの強さが低下する現象
※吸収や散乱のない理想的な条件では、超音波のエネルギーそのものが消失するわけではありません。
散乱減衰と拡散減衰は「拡がる範囲」の違いではない
散乱減衰と拡散減衰は、どちらも超音波が広い方向へ向かうように見えるため、違いが少し分かりにくい項目です。
しかし、両者は「広がる範囲の大小」で区別するものではありません。違うのは、超音波が広がる原因です。
| 拡散減衰 | 散乱減衰 | |
|---|---|---|
| 原因 | 波面やビーム自体が空間的に広がる | 小さな構造に当たり、別方向へ散る |
| エネルギー | 広い面積へ分配される | 元の進行方向から別方向へ分配される |
| 散乱体 | 必要ない | 必要 |
| 代表例 | 球面波、焦点後に発散するビーム | 肝実質、血球、組織内の微細構造 |
| プローブへ戻る成分 | 必須ではない | 一部が後方散乱として戻る |
懐中電灯で考えると分かりやすい

超音波ビームを懐中電灯の光に例えると、違いをイメージしやすくなります。
懐中電灯を壁から遠ざけると、同じ光が広い面積を照らすため、単位面積あたりの明るさは低下します。これが拡散減衰のイメージです。
一方、霧の中で懐中電灯を照らすと、光が霧の粒に当たり、前方だけでなくさまざまな方向へ散ります。その結果、元の進行方向へ届く光が弱くなります。これが散乱減衰のイメージです。
拡散減衰は「波そのものが広がる」、散乱減衰は「構造物に当たって進行方向が変わる」という違いです。
実際の生体内では3種類が同時に起こる
実際の生体内では、吸収・散乱・拡散のどれか一つだけが起こるわけではありません。
たとえば肝臓へ超音波を送信すると、
- 超音波ビームが伝搬に伴って広がる
→ 拡散減衰 - 肝実質の微細構造によって超音波が散る
→ 散乱減衰 - 超音波エネルギーの一部が組織に吸収され、熱へ変換される
→ 吸収減衰
が同時に生じます。
平面波でも拡散減衰は起こる?
理想的な平面波では拡散減衰しない
球面波では、伝搬距離が長くなるほど波面の面積が大きくなります。そのため、同じエネルギーが広い面積へ分配され、拡散減衰が生じます。
一方、理想的な平面波は、伝搬しても波面の面積が変化しません。そのため、吸収や散乱のない理想的な条件では、波面の広がりによる拡散減衰は生じません。
ただし、これは無限に広い波面を持つ、理想化された平面波の話です。
実際の超音波装置が作る平面波では?
超音波装置のplane wave imagingで作られる波は、有限の幅を持つ振動子群から送信される「平面波に近い波」です。
中央部分では波がほぼ平行に進みますが、実際の送信開口には端があります。そのため、端の部分では回折が生じ、伝搬に伴ってビームが広がることがあります。
したがって、実際の平面波送信では、理想的な無限平面波と異なり、回折によるビームの広がりと、それに伴う強度低下が生じ得ます。
| 波の種類 | 拡散減衰 |
|---|---|
| 理想的な無限平面波 | 生じない |
| 球面波 | 生じる |
| 実際の有限幅の平面波 | 回折によってビームが広がり得る |
| 集束ビーム | 焦点後に発散する |
回折は次の記事で
ここで登場するのが「回折」です。
回折とは、波が障害物の端へ回り込んだり、有限の開口部を通過した後に広がったりする現象です。
回折は波長や開口部の大きさとも関係し、掘り下げるとかなり面白いテーマです。ただし、ここまで書くと本記事の主題から離れてしまうため、回折については別の記事で詳しく整理したいと思います。
超音波検査士基礎問題はどう覚える?
ここまで細かな理想平面波と有限開口の違いまで問われる可能性は高くないと思いますが、基礎用語を単独で暗記するのではなく、関連づけて理解しておくと選択肢を判断しやすくなります。
- 吸収・散乱・拡散では、強度が低下する仕組みが異なる
- 理想的な球面波では拡散減衰が生じ、理想的な平面波では生じない
- 実際の超音波ビームは有限開口から送信されるため、回折の影響を受ける
こちらの3つを押さえておくと良いと思います。
まとめ
今回は、散乱減衰と拡散減衰の違いを中心に整理しました。
- 吸収減衰は、音響エネルギーが熱などへ変換される
- 散乱減衰は、微細な構造に当たって超音波が別方向へ散る
- 拡散減衰は、波面やビームが広がり、単位面積あたりの強度が低下する
散乱と拡散は、どちらも超音波が広がるように見えますが、「何かに当たって進行方向が変わったのか」「波面やビーム自体が広がったのか」という違いがあります。
また、理想的な平面波では拡散減衰は生じませんが、実際の超音波ビームでは有限開口による回折の影響を考える必要があります。
基礎を掘り下げてみると、それぞれの項目が少しずつつながっていくのが面白いですね。
次回は、今回登場した「回折」と波長・開口幅との関係について整理したいと思います。
参考文献
- You Z, et al. Numerical simulation of ultrasonic wave propagation in anisotropic and attenuative solid materials. IEEE Trans Ultrason Ferroelectr Freq Control. 1991;38(5):436–445.
幾何学的ビーム拡散と粘性によるエネルギー吸収を区別しています。 - Anderson FL. Huygens’ Principle geometric derivation and elimination of the wake and backward wave. Sci Rep. 2021;11:20257.
平面波と球面波の伝搬、球面拡散による振幅低下を理論的に扱っています。

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