ASE 2025 左室拡張能評価の学習補助ツール|E/e’・TR速度・E/AからLAP推定を整理する

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超音波検査

ASE2025ガイドラインのチャートを心エコー検査で利用しているのですが、お恥ずかしいことに私はまだ覚えられません…
そこで、今回ASE 2025の考え方を学習・確認しやすくするために、左室拡張能評価の補助ツールを作成しました。

ASE 2025左室拡張能評価ガイドラインの全体像や、2025年版でどのような点が変わったのかについては、以下の記事で整理しています。
JASE左室拡張能評価ガイドライン2025|2016版から何が変わった?

本ツールについて

このツールは、ASE 2025の安静時左室拡張能評価アルゴリズムを理解するために作成した、非公式の学習補助ツールです。

ASE公式ツールではありません。
診断を確定するものでもありません。

実際の判定は、症状、基礎疾患、心拍数、血圧、リズム、弁膜症の有無、画質、ドプラ波形の信頼性、他の心エコー所見を含めて総合的に行う必要があります。

また、本記事ではASE 2025ガイドラインの図表を転載・翻訳転載せず、ガイドラインで示された考え方をもとに、学習用に内容を整理しています。

ASE 2025 / LV Diastolic Function

左室拡張能グレード判定ツール

はい/いいえ、または数値入力で、Gradeと推定LAPを表示します。

注意:このツールは教育・確認用です。医療機器ではありません。最終判断は、画質、計測条件、患者背景、除外条件、他の心エコー所見と合わせて行ってください。

0. 適用前チェック

除外条件がありますか?

例:AF、重症一次性MR、MS、中等度以上MAC、非心原性PH、心移植、収縮性心膜炎、LVAD、僧帽弁形成/置換/TEER後など

1. 主要3項目

① e’低下あり?

septal e’ ≤ 6 cm/s、lateral e’ ≤ 7 cm/s、average e’ ≤ 6.5 cm/s のいずれか

② E/e’上昇あり?

septal E/e’ ≥ 15、lateral E/e’ ≥ 13、average E/e’ ≥ 14 のいずれか

③ TR速度またはPASP上昇あり?

TR Vmax ≥ 2.8 m/s、または PASP ≥ 35 mmHg

2. E/Aと補助所見

E/Aはどれですか?
補助所見はいずれか陽性ですか?

PV S/D ≤ 0.67、LARS ≤ 18%、LAVi > 34 mL/m²、IVRT ≤ 70 ms、PR end-diastolic velocity ≥ 2 m/s、PADP ≥ 16 mmHg、L-wave ≥ 50 cm/s、Ar-A duration > 30 ms、ValsalvaでE/A 50%以上低下など

症状がありますか?

労作時息切れ、HFpEF疑いなど。安静時LAP正常でも負荷拡張能エコーを考えるメモに使います。

Based on ASE 2025 recommendations for evaluation of LV diastolic function and HFpEF diagnosis. This tool paraphrases the algorithm and thresholds for educational use.

このツールで確認できること

このツールでは、安静時の左室拡張能評価について、以下の項目を順番に確認できます。

主に使用する項目は、

・mitral annular e’
・E/e’
・TR velocity または PASP
・E/A ratio

です。

必要に応じて、

・LARS
・肺静脈S/D比
・LAVi
・IVRT

などの補助項目も確認します。

ASE 2025では、安静時LAP推定の主要項目として、e’低下、E/e’上昇、TR速度またはPASP上昇が用いられています。具体的には、septal e’ ≤6 cm/s、lateral e’ ≤7 cm/s、average e’ ≤6.5 cm/s、E/e’はseptal ≥15、lateral ≥13、average ≥14、TR Vmax ≥2.8 m/s、またはPASP ≥35 mmHgが目安として示されています。

判定の大まかな流れ

まず、e’が低下しているかを確認します。e’は左室弛緩能を反映する重要な指標です。

次に、E/e’上昇、TR速度またはPASP上昇の有無を確認します。

3項目すべてが異常であれば、安静時LAP上昇を支持する所見と考えます。その場合、E/A比によってGrade 2またはGrade 3に分類します。

E/A <2であればGrade 2、E/A ≥2であればGrade 3と判断します。一方で、e’低下のみを認め、E/e’やTR/PASPが正常、かつE/A ≤0.8の場合はGrade 1拡張障害に相当します。

ただし、実際の症例では、すべての指標がきれいに一致するとは限りません。E/e’だけが高い、TR速度だけが高い、TR波形が十分に取れない、E/Aが0.8を超えていて判断に迷う、といった場面もあります。

そのような場合には、LARS、肺静脈S/D比、LAVi、IVRTなどの補助項目を確認します。ASE 2025では、LARS ≤18%、肺静脈S/D ≤0.67、LAVi >34 mL/m²、IVRT ≤70 msなどが補助的に用いられています。

ツールの対象外となる症例

このツールは、一般的な安静時左室拡張能評価の流れを学ぶためのものです。

以下のような症例では、通常のチャートをそのまま当てはめることはできません。

・心房細動
・高度な一次性僧帽弁逆流
・僧帽弁狭窄
・中等度以上の僧帽弁輪石灰化
・僧帽弁形成術後
・僧帽弁置換術後
・TEER後
・心移植後
・非心原性肺高血圧
・収縮性心膜炎
・LVAD装着後

ASE 2025のFigure 3でも、これらの症例では一般的な安静時LAP推定アルゴリズムをそのまま適用しないことが示されています。

特に、心房細動や僧帽弁疾患では、E/A、肺静脈血流、LAViなどの意味づけが変わります。そのため、別の評価方法や専門的な判断が必要です。

VMTスコアや運動負荷は入れていません

VMTスコアは興味深い補助指標ですが、ASE 2025の標準的な安静時評価チャートには含まれていません。そのため、本ツールの判定項目には入れていません。

また、運動負荷拡張能評価は、安静時評価だけでは労作時息切れなどの症状を説明できない場合に検討される追加評価です。ASE 2025でも、症状があるにもかかわらず安静時LAPが正常と考えられる場合、特にGrade 1相当や判定が難しい症例では、運動負荷拡張能評価の検討が示されています。

つまり、運動負荷は「安静時評価ツールの中に入れる項目」ではなく、「安静時評価で説明がつかないときに次に考える評価」として分けて考えた方がわかりやすいと思います。

レポートでは何を書くか

ASE 2025では、心エコーレポートに拡張能グレードと充満圧の状態を記載することが推奨されています。グレードを決められない場合でも、LAPが正常か上昇しているかについて記載することが望ましいとされています。

たとえば、以下のような表現が考えられます。

正常範囲と考える場合

左室拡張能は明らかな異常を認めません。安静時左房圧上昇を示唆する所見は認めません。

Grade 1相当の場合

e’低下を認め、左室弛緩障害を示唆します。E/e’およびTR速度からは、安静時左房圧上昇を示唆する明らかな所見は認めません。左室拡張能障害Grade 1相当と考えます。

Grade 2相当の場合

e’低下、E/e’上昇、TR速度またはPASP上昇を認め、安静時左房圧上昇が示唆されます。E/A比は2未満であり、左室拡張能障害Grade 2相当と考えます。

Grade 3相当の場合

e’低下、E/e’上昇、TR速度またはPASP上昇を認め、安静時左房圧上昇が示唆されます。E/A比は2以上であり、左室拡張能障害Grade 3相当と考えます。

判定保留の場合

一部の指標に異常を認めますが、各指標の整合性が十分ではなく、左室拡張能グレードの判定は困難です。安静時左房圧については、他の心エコー所見および臨床所見とあわせて総合的に判断してください。

このツールを使うときの注意点

左室拡張能評価は、ひとつの数値だけで決めるものではありません。

E/A、e’、E/e’、TR速度、LAVi、LARS、肺静脈血流などを組み合わせ、さらに症状、リズム、心拍数、血圧、弁膜症、画質、過去検査との比較を含めて判断する必要があります。

また、ドプラ波形やストレイン解析の質が不十分な場合、その指標を無理に判定に使うべきではありません。ASE 2025でも、2D画像、ドプラ波形、スペックルトラッキングの質を確認し、信頼できない指標を結論に使わないことが重要とされています。

本ツールは、日常検査で迷ったときの確認用、または初学者が左室拡張能評価の流れを学ぶための補助として使用してください。

まとめ

ASE 2025の左室拡張能評価では、安静時LAPの推定と拡張能グレードを組み合わせて判断します。

ただし、実際の症例では、指標がそろわないことや、判断に迷うことも少なくありません。

このツールは、ASE 2025の安静時評価アルゴリズムを「はい/いいえ」でたどりながら、左室拡張能グレードとLAP推定を整理するための学習補助ツールです。

公式ツールではなく、診断を確定するものでもありませんが、拡張能評価の考え方を整理するきっかけになればと思います。

参考文献

Nagueh SF, Sanborn DY, Oh JK, et al. Recommendations for the Evaluation of Left Ventricular Diastolic Function by Echocardiography and for Heart Failure With Preserved Ejection Fraction Diagnosis: An Update From the American Society of Echocardiography. Journal of the American Society of Echocardiography. 2025;38:537-569.

おのこ

サイト運営者:おのこ

本サイトにお越しいただき、ありがとうございます。
私は関東在住の臨床検査技師です。
超音波検査で全身スキャン出来るようになりたい!という気持ちから
・超音波検査士(消化器・表在・循環器・泌尿器・けんしん)
・血管診療技師
・JHRS認定心電図専門士
・乳がん検診精度管理中央機構認定技師
を取得しました。
このブログでは、超音波検査の症例や参加した学会・勉強会の感想、超音波検査士認定試験について書いています。
これから超音波検査の業務に携わる方、超音波検査士を受験される方のお役に立てれば幸いです。

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