前回は、散乱減衰と拡散減衰について整理しました。
超音波の散乱減衰と拡散減衰の違い|どちらも「広がる」のに何が違う?
その中で、実際の超音波装置では有限の大きさをもつ振動子から超音波を送信するため、回折によってビームが広がることに触れました。
そこで今回は「回折」について掘り下げます。
回折=「波が障害物の後ろへ回り込む現象」と覚えている方は多いと思います。私もそうでした。
でも、それを実際の超音波プローブに置き換えるとどうなるのでしょうか?
今回は、波長や開口幅との関係から、超音波ビームや画像への影響までつなげて私なりに整理してみました。
日本超音波医学会の医用超音波用語集では、回折は「超音波が物体に照射された際、物体の影になる部分に回り込んで伝わる現象」と説明されています。本記事では、この基本的な定義を出発点に、波長や開口幅との関係、さらに実際の超音波プローブから送信されるビームとのつながりを考えてみます。
試験対策としては『回折と「関係があるもの・ないもの」を整理』項をご覧いただいて、関連付けておくと理解しやすいと思います。
そもそも回折とは?
回折とは、波が障害物の端へ回り込んだり、有限の開口部を通過した後に広がったりする現象です。
ここで重要なのは、「回り込み」だけではないということです。
回折と拡散減衰の違い
ここで「広がる」という言葉が出現したので、回折と拡散減衰それぞれについて整理します。
回折:波が端や有限開口によって回り込み・広がる現象
拡散減衰:波面やビームが広がった結果、単位面積あたりの強さが低下する現象
回折=拡散減衰ではありませんが、回折は拡散減衰を生じさせる原因の一つです。
有限開口 → 回折 → ビームが広がる → 強度が低下 → 拡散減衰
につながることがあります。
回折と「関係があるもの・ないもの」を整理
試験対策としてこちらも整理しましょう。
回折を直接左右するもの
| 項目 | 関係 |
|---|---|
| 波長 | 長いほど回折による広がりが大きい |
| 周波数 | 同じ媒質では低いほど波長が長くなり広がりが大きくなる |
| 開口幅 | 小さいほど広がりやすい |
| 開口部・障害物の大きさ | 波長との相対的な大きさが重要 |
回折の結果として影響を受けるもの
| 項目 | 関係 |
|---|---|
| ビーム幅 | 回折によって広がる |
| 方位分解能 | ビーム幅を介して影響を受ける |
| 遠方でのビーム発散 | 回折と関係する |
| 拡散による強度低下 | ビームの広がりによって生じ得る |
| 音場 | 開口幅・波長・回折と関連する |
回折とは別の原理で考えるもの
| 項目 | 主に関係するもの |
|---|---|
| 吸収減衰 | 媒質の性質・周波数 |
| 反射 | 音響インピーダンス差など |
| 屈折 | 音速差・入射角 |
| 音響インピーダンス | 密度×音速 |
| PRF | パルス送信間隔 |
| ゲイン | 受信信号の増幅 |
| ダイナミックレンジ | 表示階調 |
「回折を直接左右するもの」の表を覚えておくと良さそうでしょうか。項目も少ないですし。
「開口部」を超音波プローブに置き換えると?
超音波プローブには有限の大きさがあります。
つまり、超音波は無限に広い面から送信されているのではなく、限られた大きさの開口から送信されています。
そのため、プローブから出た超音波は細い棒のように完全に平行なまま進むわけではなく、回折の影響を受けます。
理想的な平面波と実際の平面波
理想的な平面波は無限の広がりを持つため、「端」がありません。
一方、実際のplane wave imagingも有限の開口から送信されます。そのため、理想的な無限平面波とは異なり、回折の影響を受けます。
回折すると実際の画像に何が起こる?
実際の超音波検査にどのような影響があるか考えてみます。
ビーム幅に影響する
回折が大きいほど、遠方でビームが広がりやすくなります。
ビーム幅が広がると方位分解能に影響する
方位分解能は、超音波ビームと直交する方向に並ぶ2つの構造を区別する能力です。
ビームが細いほど2つの構造を別々に認識しやすく、ビームが広いほど同じビーム内に複数の構造が入りやすくなります。
回折による広がり↑
→ ビーム幅↑
→ 方位分解能↓
という関係になります。
方位分解能→フォーカスを合わせれば解決!→新たなモヤモヤ
焦点付近(今回の記事では焦点付近=フォーカス付近とします)ではビームが細くなるため、従来から観察部位にフォーカスを設定することは画質調整の基本とされてきました。
現在の超音波装置では?
現在の超音波装置では、ダイナミック受信フォーカスやビームフォーミング、自動的な画像最適化などが進歩しており、検査者が毎回細かくフォーカス位置を調整しなくても良好な画像が得られる場面も増えています。
では、回折やフォーカスを学ぶ意味はなくなったのでしょうか?
基礎を知る意味は「手動操作」だけではない
オート機能が優秀になっても、超音波の物理的な性質そのものがなくなったわけではありません。
回折やビーム幅を理解していれば、
- なぜ深部で小さな構造がぼやけるのか
- なぜ周波数を変えると見え方が変わるのか
- なぜ同じ病変でも深さによって分解能が異なるのか
- なぜゲインを上げても改善しないことがあるのか
を考えられるようになります。
基礎を学ぶ目的は設定方法を暗記することではなく、画像の見え方に理由をつけて考えるためだとも考えています。理解した方が日々のルーチンも楽しいですし、よりキレイな画像を記録することができます。
まとめ
- 回折は「回り込み」だけでなく、有限開口から出た波の広がりにも関係する
- 開口幅に対して波長が相対的に大きいほど、回折による広がりが目立つ
- 同じ条件なら低周波ほど波長が長く、回折による広がりが大きくなりやすい
- 回折によるビームの広がりは、ビーム幅や方位分解能に関係する
- 回折を学ぶ意味は手動でフォーカスを合わせるためだけではなく、超音波画像の見え方や限界を理解することにある
回折を調べていくと、今度は「近距離音場」「遠距離音場」「焦点」「Fナンバー」へとつながっていきます。
また次の記事で整理してみたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

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