JASE左室拡張能評価ガイドライン2025を現場でどう使う?学会で聞いた反応とVMTスコア

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勉強会・学会

JASE左室拡張能評価ガイドライン2025が提示されてから、半年ほどが経過しました。
2026年4月に開催された第37回日本心エコー図学会学術集会では、拡張能評価に関するセッションが複数あり、新ガイドラインの考え方、実際に使用した印象、今後の課題について議論されていました。
今回は、私自身が新ガイドラインを使用して感じたことに加え、学会で紹介されていた考え方や運用方法を実際に試してみた感想をまとめます。

なお、本記事はガイドラインの内容を網羅的に解説するものではなく、実臨床での運用を考えるうえで私が参考になった点を中心に整理しています。詳細は原文・各施設の方針をご確認ください。

2025年版ガイドラインの変更点や2016年版との違いについては、先にこちらの記事でまとめています。
JASE左室拡張能評価ガイドライン2025|2016版から何が変わった?

心エコー図学会でも注目されていた左室拡張能評価

第37回日本心エコー図学会学術集会では、左室拡張能評価に関連するセッションが複数企画されており、新ガイドラインへの関心の高さを感じました。
パネルディスカッションでは、2025年改訂のASEガイドラインの考え方や、判定困難症例へのアプローチ、HFpEF診断における評価の考え方などが整理されていました。
また、ディベートセッションでは「拡張能gradingをレポートに記載すべきか」「日常検査でどこまでルーチン評価するか」といった、実際の現場に近いテーマも扱われていました。

新ガイドラインで現場が使いやすくなった点

判定不能が減り、明確な分類につながりやすくなった

新ガイドラインを使用して最も大きく感じた変化は、従来よりも「判定不能」となる症例が減り、何らかのグレードへ分類しやすくなった点です。
これまで複数の指標を見ても判断に迷う症例では、最終的な表現に悩む場面がありました。新しいアルゴリズムでは評価の流れが整理されており、少なくとも「どの項目を確認し、どこで判断するか」は以前より明確になった印象があります。

一方で、使ってみて迷った点

e’低値でGrade 1以上となることへの戸惑い

一方で、実際に使用してみると迷う場面もありました。
たとえば、e’が低値であることによりGrade 1以上に分類される症例では、「本当に臨床的な拡張障害として扱ってよいのか」と考える場面があります。
加齢や背景疾患、血行動態の影響をどこまで反映しているのかを考える必要があり、数値だけで機械的に判断するのは慎重であるべきだと感じました。

新ガイドラインは“陽性に強い”が“陰性で否定する”ものではない

新ガイドラインは、左房圧上昇や拡張障害が疑われる症例を拾い上げ、リスク層別化するうえでは非常に有用だと感じます。
一方で、「異常所見がない=HFpEFや左房圧上昇がない」と判断するためのものではない点には注意が必要です。
安静時の心エコー検査では明らかな異常が出にくい症例もあり、症状や背景疾患、必要に応じた負荷評価などを含めて総合的に考える必要があります。

AF症例の評価で気になった点

新ガイドラインではAF症例に対するアルゴリズムも示されました。AFは心拍ごとに波形が変動するため、評価方法が整理されたこと自体は非常にありがたいと感じます。
一方で、二次判定の指標にBMIが含まれている点については、地域差や患者背景によって影響を受ける可能性があるのではないかと感じました。
また、Dual DopplerによるE/e’が強く推奨されている点も、理論的には理解できる一方で、すべての施設で日常的に実施できるかという点では課題が残るように思います。

拡張能gradingはレポートに記載するべきか?

学会で特に印象的だったのは、「拡張能gradingをレポートに記載するか」という議論です。
会場では、拡張能gradingをレポートに記載している、または必要と考えている施設は約半数程度が、議論後には、記載が必要
ないと考える割合がやや増えていました。
一方で、冬期講習会では「必ずしも記載しなくてよいのではないか」という意見もあり、施設ごとの考え方にはまだ幅があると感じます。
私自身は、現時点では拡張能gradingをレポートに記載しています。ただし、単にGradeだけを書くのではなく、どの所見に基づいて判断したのかが伝わる表現が必要だと感じています。

LAストレインをルーチンで使えない施設ではどうするか

新ガイドラインではLAストレインが重要な指標として扱われていますが、すべての施設でルーチン計測できるわけではありません。
実際、学会内でもLAストレインを日常的に計測している施設は限られている印象でした。専用ソフトがない施設や、循環器専門外のクリニックでは、すぐに導入することが難しい場合もあります。
そのため、LAストレインを計測できない場合に、どの指標をどのように代用・補完していくかが今後の実務上の課題になると感じました。

VMTスコアは正式なガイドライン項目ではないが、現場では使いやすい

今回の学会で個人的に特に印象に残ったのが、VMTスコアの活用です。
ただし、VMTスコアはJASE左室拡張能評価ガイドライン2025の中で、正式な評価アルゴリズムとして提示されているものではありません。
そのため、ガイドラインに基づく左室拡張能評価そのものとは分けて考える必要があります。

一方で、学会ではVMTスコアについて、僧帽弁と三尖弁が描出できれば評価可能であり、POCUSやポータブルエコーでも活用しやすい可能性がある方法として紹介されていました。
実際に私も試してみたところ、評価手順が比較的シンプルで、専用ソフトを必要としない点は非常に実用的だと感じました。

特に、LAストレインをルーチンで計測できない施設や、循環器専門施設以外の現場では、左室拡張能評価を補助する一つの視点として活用できる可能性があると思います。
ただし、現時点ではあくまで補助的な評価方法として扱い、ガイドラインに基づく判定や臨床情報とあわせて総合的に判断することが重要だと感じました。

S/Dをどう取り入れるか

今後、自施設では新ガイドラインを引き続き活用しながら、VMTスコアや肺静脈血流S/Dの評価も取り入れていきたいと考えています。
特にLAストレインを常に計測できない環境では、複数の古典的指標を丁寧に確認することが重要になると感じます。

JSE2026全体で印象に残ったテーマについては、参加レポとして別記事にまとめています。
【JSE2026参加レポ】心エコーの未来を感じた3日間|拡張能評価・AI・臓器うっ血の注目ポイント

まとめ|新ガイドラインは“答え”ではなく、判断をそろえる道具

新ガイドラインは、左室拡張能評価をより明確に分類し、判定困難例を減らすうえで有用なツールだと感じます。
一方で、数値やアルゴリズムだけで臨床判断が完結するわけではありません。
特にHFpEFの評価では、心エコー所見だけでなく、症状、背景疾患、血行動態、検査時の条件を含めて総合的に考える必要があります。
今回の学会を通して、新ガイドラインに沿った評価を基本としながらも、施設環境に応じて実践しやすい補助的評価をどう取り入れるかが、今後の課題になると感じました。
VMTスコアは正式なガイドライン項目ではありませんが、POCUSや専用ソフトがない環境でも活用しやすい可能性があり、現場での左室拡張能評価を支える一つの道具として注目したいと思います。

おのこ

サイト運営者:おのこ

本サイトにお越しいただき、ありがとうございます。
私は関東在住の臨床検査技師です。
超音波検査で全身スキャン出来るようになりたい!という気持ちから
・超音波検査士(消化器・表在・循環器・泌尿器・けんしん)
・血管診療技師
・JHRS認定心電図専門士
・乳がん検診精度管理中央機構認定技師
を取得しました。
このブログでは、超音波検査の症例や参加した学会・勉強会の感想、超音波検査士認定試験について書いています。
これから超音波検査の業務に携わる方、超音波検査士を受験される方のお役に立てれば幸いです。

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